安全性・適応基準 詳細解説

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鍼灸治療の安全性と適応について

Safety and Indications for Acupuncture in Obstetric Care|最終更新:2026年5月|執筆・監修:小井土善彦(一般社団法人東洋医学周産期ケア研究会 理事)

このページの要約

  • 系統的レビュー(Park 2014)・大規模コホート研究(Moon 2020)により、適切に実施された妊娠中の鍼灸治療は重篤な有害事象リスクが低いことが示されている
  • 鍼灸治療固有の合併症として気胸が知られており、妊婦への施術でも報告例がある(水之江ら 2024)
  • 「鍼灸の技術的安全性が良好」であることと「すべての妊婦に適応がある」ことは別の問題である。産科的状態の判断が不可欠
  • 切迫早産・前置胎盤・妊娠高血圧症候群など産科的に不安定な状態では、産科的管理を優先すべきである

1. 妊娠中の鍼灸治療の安全性——文献からわかること

系統的レビュー(Park et al. 2014)

Park J, Sohn Y, White AR, Lee H. The safety of acupuncture during pregnancy: a systematic review. Acupunct Med. 2014;32:257–266.
DOI: 10.1136/acupmed-2013-010480

妊娠中の鍼灸治療における有害事象の発生率は、1万セッションあたり193件(因果関係の有無を問わず全事象)、因果関係が「確実・ほぼ確実・可能性あり」と評価されたものに限ると131件であった。最も多い有害事象は刺鍼時の痛み・出血・めまい等の軽度なものであり、重篤な有害事象との因果関係はいずれも「なし」と評価された。

後方視的コホート研究(Moon et al. 2020)

Moon H-Y, et al. Safety of acupuncture during pregnancy: a retrospective cohort study in Korea. BJOG. 2020;127:79–87.
DOI: 10.1111/1471-0528.15925

韓国・国民健康保険データを用いた約2万例規模の研究では、鍼灸を受けた妊婦と受けなかった妊婦の間で、早産率・死産率に有意差は認められなかった。ハイリスク妊娠群での層別解析でも同様の結果であった。

解釈の留意点

これらの知見から、適切に実施された妊娠中の鍼灸治療は重篤な有害事象を引き起こすリスクが低いと考えられる。ただし、いずれの研究も方法論的限界があり、確定的な結論とは言えない。

2. 鍼灸治療固有の有害事象——気胸について

鍼灸治療に固有の合併症として気胸が知られており、稀ではあるものの念頭に置くべき事象である。2024年、妊娠38週の骨盤位に対する鍼灸治療後に気胸を発症した症例が報告されており(水之江ら、東京産婦会誌 2024)、産婦人科医への情報提供の重要性が指摘されている。

水之江裕子ほか. 妊娠満期に気胸を発症し胸腔ドレーン挿入後に経腟分娩に至った1例.
東京産婦会誌. 2024;73(2):290–295.

気胸リスクへの対応(OPCCO推奨)

頸・肩・胸部へ刺鍼する際は気胸のリスクを考慮し、施術を最小限にとどめるか、離れた安全な部位に施術野を変更するなど、より慎重な対応が求められる。また、施術後に呼吸苦・胸痛等の症状が現れた場合は直ちに医療機関を受診するよう患者に説明することが重要である。

3. 「安全性」と「産科的適応」は別の問題

鍼灸治療そのものの安全性プロファイルが良好であることと、すべての妊婦に適応であることは、まったく別の問題である。産科領域には、正常経過から異常へと急変しうるという特殊性がある。鍼灸師はこの特性を十分に理解した上で、鍼灸の技術的安全性だけでなく、その時点での産科的状態を判断の基軸に置く必要がある。

実例:受診をお断りしたケース

骨盤位の鍼灸治療を希望する連絡があり、妊娠週数と経過を確認したところ、切迫早産で入院中であり、一時帰宅の機会に来院を希望しているとのことであった。その時点での優先事項は切迫早産の治療であること、産科的状態が安定してから担当医に相談の上で改めて検討するようお伝えし、受診をお断りした。この判断は鍼灸治療が危険だということではなく、その時点の産科的状態が鍼灸治療を受けるべき状態ではなかったという判断である。

4. 適応とならないケースの考え方

以下のような産科的状態にある場合は、鍼灸治療よりも産科的管理を優先すべきと考えている。

  • 切迫早産・切迫流産で安静指示または入院中
  • 前置胎盤・低置胎盤で出血リスクのある状態
  • 妊娠高血圧症候群で管理中
  • 担当医から安静・外出制限の指示が出ている
  • その他、産科的に不安定な状態

これらは「永続的に鍼灸を受けられない」ということではない。産科的状態が安定した後に、担当医への相談を経て受診を検討するよう案内することが適切である。


5. 受診前に確認すべき項目

初回連絡時に確認する項目 現在の妊娠週数 / 妊娠経過(正常経過か、管理が必要な状態か)/ 担当医・助産師からの指示内容 / 前回妊娠の経過(経産婦の場合)
確認後の対応 上記を確認した上で、受診の可否・適切な開始時期を案内する。判断が難しいケースでは、担当医への相談を先にお願いする場合がある。

6. 医療連携の観点から——紹介いただく際のお願い

産婦人科医・助産師の方から患者を紹介いただく際に、以下の情報をお伝えいただけると、より安全な対応が可能になる。

  • 現在の妊娠週数と胎位
  • 妊娠経過上の注意事項・安静度の指示
  • 鍼灸治療についての担当医の見解(可能であれば)

紹介状は必須ではないが、上記の情報を口頭またはメモでお伝えいただけると助かる。


7. 産婦人科医・助産師へのメッセージ

「妊婦さんに鍼灸を勧めても安全でしょうか?」

系統的レビュー(Park 2014)および大規模コホート研究(Moon 2020)の知見から、適切に実施された妊娠中の鍼灸治療は重篤な有害事象リスクが低いと考えられています。一方で、産科的に不安定な状態(切迫早産・前置胎盤・妊娠高血圧症候群など)では産科的管理を優先すべきであり、安全性と適応は別の問題です。紹介いただく際は現在の週数・経過・安静度の情報を添えていただけると、専門鍼灸施設がより安全な判断を行えます。気胸リスクへの配慮(頸・肩・胸部への刺鍼を最小限にすること)も、産科領域に慣れた鍼灸師であれば対応可能です。


8. 参考文献

  1. Park J, Sohn Y, White AR, Lee H. The safety of acupuncture during pregnancy: a systematic review. Acupunct Med. 2014;32:257–266. DOI
  2. Moon H-Y, et al. Safety of acupuncture during pregnancy: a retrospective cohort study in Korea. BJOG. 2020;127:79–87. DOI
  3. 水之江裕子ほか. 妊娠満期に気胸を発症し胸腔ドレーン挿入後に経腟分娩に至った1例. 東京産婦会誌. 2024;73(2):290–295.

引用・参照される方へ

本ページを引用・参照される場合は以下の形式をお使いください。

小井土善彦(一般社団法人東洋医学周産期ケア研究会 理事). 鍼灸治療の安全性と適応について.
一般社団法人東洋医学周産期ケア研究会. 2026年5月.
URL: http://opcco.org/%e5%ae%89%e5%85%a8%e6%80%a7%e3%83%bb%e9%81%a9%e5%bf%9c%e5%9f%ba%e6%ba%96-%e8%a9%b3%e7%b4%b0%e8%a7%a3%e8%aa%ac/

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