乳がん既往女性のホットフラッシュ 詳細解説

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乳がん既往女性のホットフラッシュ

一次資料に基づくエビデンス概説|最終更新:2026年8月|執筆・監修:小井土善彦(一般社団法人東洋医学周産期ケア研究会 理事)

このページの要約

  • 乳がん既往女性はホルモン療法(HT)が推奨されないため、非ホルモン療法の有効性を検討したコクランレビュー(Rada 2021)を紹介する
  • クロニジン・SSRI/SNRI・ガバペンチンなどの薬物療法、およびリラクゼーション療法には軽度〜中等度の効果が示された
  • 鍼治療は対象研究がわずか1件(Deng 2007)にとどまり、偽鍼と比べて有意な効果は確認されなかった
  • 日本乳癌学会のガイドラインは「確定的ではないが効果は期待できる」とやや前向きに記載しているが、確立された治療法ではない
  • 安全性上、リンパ節郭清側の上肢への施術は避けるべきとされている

1. コクランレビュー(Rada 2021)の概要

Rada G, Capurro D, Pantoja T, Corbalán J, Moreno G, Letelier LM, Vera C. Non-hormonal interventions for hot flushes in women with a history of breast cancer.
Cochrane Database Syst Rev. 2021, Issue 12. Art. No.: CD004923.
DOI: 10.1002/14651858.CD004923.pub2 /  日本語要約(Cochrane)

乳がんは女性に最も多いがんの一つであり、その治療(内分泌療法・化学療法など)はホットフラッシュをはじめとする不快な症状を引き起こすことがある。閉経後女性における標準的治療であるホルモン療法(HT)は、乳がんの増殖を促す懸念があるため、乳がん既往のある女性には推奨されない。そのため、非ホルモン療法の有効性を評価することが臨床上重要となる。

Cochrane Breast Cancer Group Specialised Register、CENTRAL、MEDLINE、EMBASE等を対象に検索が行われ、16件のRCTが組み入れられた(内訳:SSRI/SNRI 6件、クロニジン2件、ガバペンチン1件、リラクゼーション療法2件、ホームオパシー2件、ビタミンE・磁気デバイス・鍼治療 各1件)。アウトカムの報告形式が研究間で一貫しておらず、メタ解析は実施されなかった。


2. 治療法別の結果

治療法 研究数 主な所見 分類
SSRI/SNRI 6件 頻度・重症度を軽度〜中等度改善 薬物療法
クロニジン 2件 頻度・重症度を軽度〜中等度改善 薬物療法
ガバペンチン 1件 頻度・重症度を軽度〜中等度改善 薬物療法
ビタミンE 1件 有意な効果なし 薬物療法
リラクゼーション療法 2件 2件中1件で有意な効果 非薬物療法
ホームオパシー 2件 有意差なしの可能性 非薬物療法
磁気療法 1件 有意差なしの可能性 非薬物療法
鍼治療 1件(Deng 2007) 偽鍼と比べて有意差なし(詳細は次項) 非薬物療法

有害事象・安全性について

  • 有害事象の報告は研究間で一貫しておらず、体系的な評価は困難であった
  • 鍼治療については、対象研究がわずか1件にとどまるため、「効果がない」と断定できるほどの十分な検証がなされたわけではない

3. 一次研究の詳細:Deng 2007

Deng G, Vickers AJ, Yeung KS, D’Andrea GM, Xiao H, Heerdt AS, Sugarman S, Troso-Sandoval T, Seidman AD, Hudis CA, Cassileth BR. Randomized, Controlled Trial of Acupuncture for the Treatment of Hot Flashes in Breast Cancer Patients.
J Clin Oncol. 2007;25(35):5584-5590.

乳がん患者72人を対象に、真の鍼治療(19の経穴を使用)と偽鍼(プラセボ鍼)を比較したランダム化比較試験。週2回×4週間、計8回の施術が行われた。

1日あたりのホットフラッシュ回数は、真の鍼治療群で8.7回→6.2回、偽鍼群で10.0回→7.6回に減少した。両群の差は0.8回/日(真の鍼治療の方が少ない)であったが、統計的に有意ではなかった(95%CI -0.7〜2.4、P=.3)。有害事象は針痕の軽度な出血・内出血程度にとどまり、重篤なものはなかった。

なお、偽鍼群の患者もその後希望により真の鍼治療にクロスオーバーしたところ、さらなる改善がみられ、6ヶ月後まで維持された。ただしこれは対照群を伴わない観察であり、自然経過や心理的効果の影響を排除できない。

安全性に関する実践例

本研究の参加者の60%にリンパ浮腫がみられたが、リンパ浮腫のある参加者には、健側(浮腫のない側)の腕にのみ施術が行われた。これは、乳がん既往患者への鍼治療における「患側上肢への施術回避」の原則が、実際の臨床研究でも徹底されていたことを示す一例である。

4. 日本のガイドラインとの関係

日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン①治療編」(BQ10:内分泌療法によるホットフラッシュ・関節痛の対策として薬物療法は推奨されるか?)の解説文では、大豆イソフラボンやハーブ、漢方薬とともに鍼治療にも言及されており、次のように記載されている。

「鍼療法の効果も検討されており、確定的ではないがその効果は期待できる」
日本乳癌学会編.乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版.金原出版.

このガイドラインの記載は、今回のコクランレビューの「有意差なし」という結果よりもやや前向きな表現である。ただし、日本のガイドラインが引用する文献は今回のコクランレビューが対象としたDeng 2007とは異なる可能性があり、両者は必ずしも同じエビデンスを指しているわけではない。いずれにせよ、「確立された標準治療」として位置づけられていない点は共通している。


5. 安全性上、特に重要な留意点

日本乳癌学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」(2023年版)は、乳がん手術後の合併症・後遺症に関する解説の中で、リンパ浮腫の予防について次のように明記している。

「手術をした側の腕には、鍼や灸、強い力でのマッサージは避ける」
日本乳癌学会編.患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版.金原出版,p93-94,2023.

この注意点の位置づけ

これは腋窩リンパ節郭清や放射線療法後のリンパ浮腫リスクを避けるための注意であり、鍼治療の有効性そのものへの言及とは別の文脈である。乳がん既往患者への施術にあたっては、この点を明確に区別して理解する必要がある。Deng 2007においても、この原則に沿った施術が行われていた(前項参照)。

6. 実臨床上の要点

乳がん既往患者は、多くの場合、主治医(乳腺外科・腫瘍内科など)による定期的なフォローアップのもとにある。鍼灸院を受診する患者の中には、主治医からの紹介や具体的な指示(患側上肢への施術を避ける、特定の部位を避けるなど)を受けている方も少なくない。

主治医の指示を最優先 鍼灸治療は主治医の治療方針を補完するものであり、代替するものではない。患者が主治医から受けている具体的な指示(施術部位・タイミングなど)を必ず確認し、それに従う。
患側上肢への施術回避 手術・リンパ節郭清側の上肢には施術を行わない。これはエビデンスの強弱にかかわらず、安全のための基本原則である。

7. OPCCOからの視点

現時点で言えること

本レビューにおける鍼治療の評価は、対象となった研究がわずか1件(Deng 2007、8回の施術)にとどまるため、「効果がない」と断定できるほどの十分な検証がなされたわけではない。同時に、「効果がある」と積極的に推奨できるだけの根拠もない。日本のガイドラインが示す「確定的ではないが効果は期待できる」という表現も、慎重な留保付きの記載であることに変わりはない。

乳がん既往患者への鍼治療を検討する際に最も重要なのは、有効性の証拠の強さそのものよりも、主治医との連携と、患側上肢への施術回避という安全上の基本原則を徹底することである。これは、更年期一般のホットフラッシュとは異なる、乳がん既往患者に特有の配慮事項である。


8. 産婦人科医・腫瘍内科医・乳腺外科医へのメッセージ

「乳がんの既往がある患者さんから、ホットフラッシュに鍼治療を試したいと相談されたら?」

コクランレビュー(Rada 2021)が根拠とするDeng 2007(乳がん患者72人のRCT)では、鍼治療は偽鍼と比べて統計的に有意な差を示しませんでした。日本のガイドラインでは「効果は期待できる」とやや前向きに紹介されていますが、確定的ではありません。鍼灸を試みる場合も、リンパ節郭清側の上肢への施術は避けるべきであり、主治医の治療方針・指示を優先していただくことが大前提です。鍼灸院を紹介・連携される際は、患側の情報や施術上の注意点を共有いただけると、安全な連携につながります。


9. 参考文献

  1. Rada G, Capurro D, Pantoja T, Corbalán J, Moreno G, Letelier LM, Vera C. Non-hormonal interventions for hot flushes in women with a history of breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2021, Issue 12. Art. No.: CD004923. DOI
  2. Deng G, Vickers AJ, Yeung KS, et al. Randomized, Controlled Trial of Acupuncture for the Treatment of Hot Flashes in Breast Cancer Patients. J Clin Oncol. 2007;25(35):5584-5590.
  3. 日本乳癌学会編.乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版.金原出版,2022.BQ10.
  4. 日本乳癌学会編.患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版.金原出版,p93-94,2023.

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小井土善彦(一般社団法人東洋医学周産期ケア研究会 理事). 乳がん既往女性のホットフラッシュ.
一般社団法人東洋医学周産期ケア研究会. 2026年8月.
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